gazou

お気に入りのシーンがある物語は、それだけで読んだり観たりした意味があると、私は考えています。
最近、人生って案外、「お気に入りのシーンを集める作業」なのかなって、思ったりするから。
自分が経験したことでも、人から聞いたことでも、疑似体験したことでもいい。

夜の大学で、体育館が、まるで巨大なウーパールーパーでも幽閉しているかのように白く、ぼんやり光っていたこと。
旅行から帰ってきて、一人暮らしの借り物の家のドアを開けて、ただいまのようでただいまじゃない、って思ったこと。
そういうのを時々思い出して、うんあれはよかった、あれは切なかったって一人で反芻するのは、愉しいものです。
体力もお金もなくったってできるし、もしかしたら天国(とは限らないけど)にも持っていけるかもしれないし。

ということで今回は、「心の美術館に飾りたい、美しい一瞬を持った物語特集」。です。2本とも映画!

ニンフォマニアック

「もう二度と観たくない映画」ランキングの常連『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でおなじみ、
ラース・フォン・トリアー監督作品。
ニンフォマニアックとは「色情狂」の意味。とりあえずストーリーでも引用しておきますか?amazonより。

凍えるような冬の夕暮れ、年配の独身男セリグマン(ステラン・スカルスガルド)は、
裏通りで怪我を負って倒れている女性ジョー
(シャルロット・ゲンズブール)を見つけた。
彼は自分のアパートでジョーを介抱し、回復した彼女に尋ねた。

「いったい何があったんだ?」するとジョーは自身の生い立ちについて赤裸々に語り始めた。
それは、幼い頃から“性”に強い関心を抱き、数えきれないほどのセックスを経験してきた女性の驚くべき数奇な物語だった…。

いや、当然、お茶の間で観るような映画でないことだけはたしかなんですけど、
不思議と、あんまり生々しいエロさは感じなかったですね。
提供される量が多すぎるからでしょうか
(業務用スーパーで買った3キロの鶏肉が、まるで食べ物とは思われないみたいに)。

実はこの映画のストーリー、細かいことはあんまり覚えていません。
でも、大好きなシーンがあるんです。
たしか、ジョーのお父さんだったと思います。
世の中には、自分とそっくりな木があるということをジョーに教えるんですね。
ある日、ジョーが、これだという木を見つける。そういうシーンがあるんです。

強い風に長いこと吹かれていたからでしょうか、
枝が、筆を滑らせた絵みたいに、横に伸びている木なんです。重力に従わないで。
私は映画館でそのシーンを観ていたのですけど、
スイスの静かな教会で、ステンドグラスの光がこぼれるのをみたときみたいな。
そんな気持ちになりました。
「ああ、これはまいった、ちょっと動けないな」って気持ちです。
(ちなみに「憧れが人を大人にする」という記事で使った写真は、その教会で撮ったものです)

いまだに私は、私にそっくりな木に出会えていません。

うつせみ

キム・ギドク監督作品。
まったく道半ばですが、私が監督作をすべて観終えたいと思っている監督の一人。
この人も、鬱映画(家族が鬱だと鬱って言葉は気軽に使いにくいけど・・・臆せず言っちゃう!)監督として
よく名前が挙がりますね。
性描写や暴力描写の激しさが話題になることの多い監督であるように思うのですけれど、
私は、彼の作品の色の使い方が好きです。
たしか、監督はかつてフランスで絵画の勉強をされていたとか。
彼の映画は、「ここだけ切り取って絵にしても美しいなあ」というシーンにあふれています
(時々、あまりにも作為的じゃないかと思うところもありつつ・・・その不器用な感じもまた好き)。

この映画は、ストーリーも好きなので、これについても少し触れましょう
amazonに・・・掲載されていた「キネマ旬報社」データベースより引用(孫引きになってしまった・・・)

夫によって家に閉じ込められたソナは、ある日、留守宅を転々とするミステリアスな青年・テソクに出会う。ふたりは秘密の旅を始め、かつてない至福の時に包まれるが…。

「テソク」の留守宅を転々して暮らしている、という設定が、まず好きなんですね。
旅行に出かけた家族の家にこっそり入って、冷蔵庫のものを食べて、バスローブを借りてみたりして。
別に大々的にお金を盗んだりはしないんです。
壊れていた家電を直したり、少しだけ恩返ししてみたりするところも良い。
どちらかというと妖精みたいな雰囲気の青年なんですね、このテソク。
私、雑誌の他の人の部屋を公開している特集とかが大好きなので、
フィクションとは言え、「他の人の生活を知れる」ことに、まずわくわくしました。
覗きの趣味があるわけじゃなくって、
「扉の向こうには、私のまったく知らない生活が閉じ込められている」ということに
興味があるんです。
間取りが同じでも、全然違う家具が配置されていて、全然違う匂いがしていて、
それってなんだか、不思議じゃありませんか?
で、誰もいないと思って侵入した家の中で、テソクはソナにばったり会ってしまうのです。

さて、この映画の中で私が大好きなのはソナがゆったりと昼寝をするシーンです。
それも、勝手に人の家に入っていって、そうっと横になって寝るんですね。
このシーン、赤がとても印象的なんです。時が止まったような、美しいシーン。

この映画、せりふが極端に少ないんですね。
特にテソクは、たしか1回もしゃべらないんじゃなかったかな・・・。
この「静謐さ」が、独特の設定と相まって
現代社会が舞台でありながら、どこかおとぎ話みたいな雰囲気を醸し出しています。

前述したシーン以外では、
ラスト近くの切ないけど滑稽な食事の様子、が最高です。
キム・ギドク作品で、今のところ一番好きな映画。

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