gazou

坂口安吾の『堕落論』の中の「恋愛論」で、こんなことが書かれていました。

教訓には二つあって、先人がそのために失敗したから後人はそれをしてはならぬ、という
意味のものと、先人はそのために失敗し後人も失敗するにきまっているが、
さればといって、だからするなとはいえない性質のものと、二つである。
恋愛は後者に属するもので、所詮幻であり、永遠の恋などは嘘の骨頂だとわかっていても、
それをするな、とはいい得ない性質のものである。
それをしなければ、人生自体がなくなるようなものなのだから。

科学技術が進歩しても、こと恋愛に関しては、
古今東西多くの人が同じようなことで悩んでいます。
答えはわかっている。
でも、踏み出せない。別れられない。余計なことを言っちゃう。
なんて厄介なんだ・・・厄介だけど。

逃げ恥の平匡さんが言ってた「好きな人越しに見る世界の美しさ」は、
何ものにも代えがたいんだよなあ。
だから人に傷つけられて、人を傷つけても、
また人を思いたくなるし、人に思われたくなってしまう。

ということで、今回は「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」作品をご紹介します。

ブルーバレンタイン

映画です。デレク・シアンフランス監督作品。

これは、冷めてしまった夫婦であるディーンとシンディが、
決定的な終焉に向かっていくところを追っていく映画です。
特筆すべきところは、その「終わりへ向かう過程」を流すのと同時に
「二人が出会ってから、ともに人生を歩むと決め、結婚するまでの過程」も流してしまうところです。
二つの時系列をしましま模様みたいに並べて、つくられている映画なんです。

「ああ、もうどうしようもない」と
観ている側の「修羅場アルバム」をぐいぐい思い出させられるような、
痛々しい二人の口論を見せた直後に、
おどけるディーンを優しい目で見つめるシンディの様子を、流すんです。
たしかに時は流れたけど、二人の性格が、大きく変わったわけではないんです。
じゃあ、なんで?
なんで思い合い続けることって、こんなに難しいんでしょう?

痛いシーンのたくさんある映画ですが、
「観ないほうがよかった」とは思いませんでした。
だって、二人の関係は変わってしまったかもしれないけど、
素敵な瞬間があったということは、なくならないから。
ラストシーンを観たら
「でもやっぱり、『誰かを愛せること』の可能性を信じたい」と思えるはずです。

ちなみに、この記事を書いているのは2017年2月で、
今月『ラ・ラ・ランド』が公開になります。
ディーン役だった、ライアン・ゴズリングが主演ですねえ。
ということで、観に行く気満々であります。

モンキームーンの輝く夜に

前回の「旅」関連作品回に引き続き、たかのてるこさんのご著書です。

私は「恋をする」よりも「恋に落ちる」という言葉の方が
優れた描写だと思っています。
手綱を握っているのは、自分でない、という感じ。
この本は、たかのさんがラオスで「恋に落ちた」ときのことを
描いている、ノンフィクション作品です。

自称日本語学習者のラオス人青年、シノヤン
(ちなみにシノヤンは、たかのさんが付けたあだ名)。
初対面のときはサル顔!と思うだけで、
たかのさんは彼をほとんど見下していました。
でも、シノヤンは素敵な手をしていました。
たかのさんが話したいと思うまで、個人的なことを聞こうとはしませんでした。
「魅力的な女性だ」と思ったら、真っすぐたかのさんに気持ちをぶつけました。
結局たかの城はあっけなく陥落するのですが、その様子がかわいらしくて、
読んでいるとこちらまでどきどきします。

素敵な言葉にも、たくさん出会える本です。
例えば、その日初めてあったたかのさんに
シノヤンが「好きだ」と言ったときの、こんな一節。

「私のことを何も知らなくて、よくそんなことが言えるよ」
「うまく言えないけど・・・・・・。
人を好きになるときって、その人のことをいろいろ知ったから、
好きになるんじゃないよ。
『どこがどう好きになった』なんて説明できない、
好きだから好きなだけだよ」

それなりに生きていると、
ちょっと話しただけ、仕草をみただけでも、
結構その人の価値観とか、透けて見えるようになると私は思っています。
恋愛に限ったことではありませんが、
「きっとこの人とは合うだろうな」と思う瞬間が、私は好きです。

本のラストでは「シノヤンとの今後はどうなるかわからない」といった旨
たかのさんが記しているのですが、
「きっとうまくいかないんだろうな」って思ってしまいました。
※この次に出されたたかのさんのご著書にその後のことが書いてあるようですが、
なんと未読であります。たかのさんが大好きだと言いながら!

だって全体的にこの本は、儚さをまとっているから。
たかのさんがシノヤンとバイクに乗りながら何気なく口ずさんだ歌が、
宇多田ヒカルの「First Love」だったりして。

昔、「ずっとこの関係が続いたらいいよね」と言い合った恋人と別れたとき、
「あの言葉は嘘だったんだなあ」と何度も思ったけど、
そう思ったのは傲慢だったなって、この本を読んで反省しました。
その瞬間は、たしかに真実だったんですよね。

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